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行政のAIは「使っている」が「機能していない」──各国政府が直面する”次の波”とは
スマートフォンの地図アプリや動画のレコメンド機能など、私たちの日常にはすでにAIが溶け込んでいます。では、税金の申告手続きや福祉サービスの窓口、公共の安全を守る警察や消防といった「行政の現場」では、AIはどこまで使われているのでしょうか? 実は今、世界中の政府が競うようにAI導入を進めています。しかし数字を見ると、「導入すること」と「本当に機能させること」の間には、想像以上に大きな溝があることが見えてきます。あなたが利用する公共サービスの未来に直結する話です。
そもそもどういうこと?
「各国政府がAIの波に備える」と聞いても、なんとなくピンとこないかもしれません。わかりやすく言うと、政府の仕事にAIを本格的に組み込もうとしている、という話です。
たとえば、役所の窓口に並ばなくても24時間チャットボットが質問に答えてくれる。詐欺の疑いのある申請を自動で検知してくれる。橋や道路の老朽化を予測して、壊れる前に修繕計画を立てられる――これらはすでに一部の国で始まっている取り組みです。
市場規模を見るとその本気度がわかります。政府・公共サービス向けのAI市場は2024年時点で 224億ドル(約3.3兆円)規模 に達しており、2033年には981億ドルへと約4倍以上に拡大する見込みです(Grand View Research)。
しかし、ここで驚くデータがあります。2026年に発表された調査(Public Sector AI Adoption Index 2026)によれば、公務員の70%以上がすでにAIを業務で使用しているにもかかわらず、「効果的に活用できている」と答えたのはわずか18%にとどまります。100人中70人が使っているのに、本当にうまく使えているのは18人だけ、という計算です。これが今、世界の行政が直面している「次の波」の本質です。
なぜ今、これほど注目されているのか?

各国が独自の戦略を打ち出し始めた
米国は2025年7月に「America’s AI Action Plan(アメリカのAI行動計画)」を発表。AIを使って「国民の期待に応える、高い応答性をもつ政府を実現する」と位置づけました。アラスカ州のデジタル行政ポータルへの活用、インディアナ州の公証人ライセンス取得プロセスの自動化、バージニア州の規制審査支援など、州レベルでも具体的な動きが加速しています。
日本でもデジタル庁が「ガバメントAI(源内)」を推進しており、2026年度中にすべての省庁・機関の 約18万人の公務員が生成AIを利用できる環境 を整備する計画が進んでいます。ブラジルはラテンアメリカで初めてAIサンドボックス(新技術を安全に試す実験場のようなもの)を立ち上げ、サウジアラビアは官民が連携した「HUMAIN」というフルスタックAIプロジェクトを進めるなど、世界が一斉に動いています。
「次の波」の主役は「自律的に動くAI(エージェンティックAI)」
現在多くの行政AIは「アシスタント型」です。AIが候補を出し、最終的な判断は人間がする、というスタイルです。しかしGartnerなど調査機関が「次のテクノロジー」として注目するのが、エージェンティックAI ——自律的に判断・行動するAIです。
たとえば、補助金の審査を人が確認しなくてもAIが完結させる、交通量を見ながら信号を自動制御する、といったイメージです。効率化の次元がまったく違いますが、その分「誰が責任を取るのか」「間違えたときどう対処するのか」という新しい問題も生まれます。
「使っている」と「機能している」の大きすぎるギャップ
冒頭の数字(70% vs 18%)に象徴されるように、多くの政府は「実験フェーズ」から抜け出せていません。Capgeminiの調査では、AI導入に成功してスケール(組織全体に広げること)できている公共機関はわずか28%。つまり、約4分の3の機関はいまだ試行錯誤の段階にあります。
なぜうまくいかないのか?「3つの壁」を理解しよう

壁①:古すぎるITシステム(レガシーシステム)
英国の中央政府ではITシステムの28%が老朽化しており、機関によっては70%に達するケースもあるとOECDのレポートは指摘しています。これはいわば、最新のアプリをインストールしようとしたら、スマートフォン本体のOSが古すぎてそもそも動かない、という状態です。
ただし問題は技術だけではありません。古いシステムに合わせて設計された「業務のやり方」「データの管理方法」「組織の意思決定のプロセス」までが古いままで残っており、これが一体となって変革を妨げています。
壁②:データの「質」と「使いこなし」
AIは大量のデータで動きますが、そのデータの質が低ければ出力も信頼できません。「AIレディ(AI導入に必要なデータ基盤が整っている)」な状態の組織は調査対象のわずか14%という調査結果もあります。
行政機関は個人情報などの膨大なデータを持っていますが、プライバシー法や法的制約によってデータを共有・活用することが難しく、むしろ足かせになっているというEYの調査もあります。
壁③:ガバナンス(管理・運用体制)と「人」の問題
どのようなルールでAIを使うか、責任は誰が取るかを決める「ガバナンス」が、技術の普及スピードに追いついていない状況です。米国の会計検査院(GAO)も2025年のレビューで、「連邦ポリシーへの準拠と急速に進化するガイダンスへの対応に苦労している」と指摘しています。
そしてもっとも根本的なのが「人」の問題です。長年、古いシステムを前提に働いてきた職員にとって、「違う考え方・不慣れなツールへの信頼」は簡単ではありません。変化への抵抗や懐疑心は、技術的な課題と同じくらい深刻な障壁です。
わたしたちにどう関係する?
「政府のAI話なんて、自分には関係ない」と思いましたか? 実はかなり身近な話です。
まず、公共サービスの質が変わる可能性があります。確定申告の手続きが自動化されたり、マイナンバーを通じた福祉申請がスムーズになったり、道路の渋滞予測が精度を増したり。行政AIがうまく機能すれば、私たちが「役所は手続きが面倒」と感じていた多くの場面が変わりうるのです。
逆に、地域間の格差も心配されます。日本では都市部と地方自治体の間でAI導入率に40%以上の差があるとされており、「住んでいる場所によってサービスの質が変わる」という行政デジタルデバイドが現実の問題として迫っています。
また、AIやデータに関わるキャリアを考えている人には、公共分野が新しいフィールドになるという視点も重要です。民間企業だけでなく、行政機関でも「AIをガバナンスできる人材」「データを整理して活用できる人材」の需要は急速に高まっています。
気をつけたい点
「導入した=改善した」ではない、という点は特に強調したいところです。適切な設計なしにAIを入れても「速い非効率」を生むだけになりかねません。個別の手続きを自動化しても、組織全体のボトルネックが解消されなければ、住民が感じるサービスの改善にはつながらないのです。
また、倫理・権利リスクも軽視できません。適切に管理されない場合、プライバシーの侵害や差別的な判断、サイバー攻撃への脆弱性、市民の行政AIへの不信感が生じうるとOECDは警告しています。
日本についていえば、18万人へのアクセス提供という「量」は評価できます。しかし内閣府・経済産業省の資料自身が「AI関連の投資・活用が著しく低迷している」と認めており、「数を揃えただけ」で終わらせないための工夫が問われています。
よくある質問
行政がAIを使うことで、個人情報が危険にさらされないか心配です。
- ●行政機関は法的に保護された膨大な個人データを持つため、プライバシーリスクは現実的な懸念です
- ●OECDもサイバー脅威や権利侵害リスクを具体的なリスクとして挙げています
- ●一方で、プライバシー法や法的制約がデータ共有そのものを制限しているため、「無制限に使われる」という状況ではありません
- ●適切なガバナンス(管理体制)が整っているかどうかを、市民が継続的に確認・監視していくことが重要です
日本のガバメントAI「源内」って何ですか?
- ●デジタル庁が推進する、日本の中央省庁向けの生成AI活用基盤の名称です
- ●2025年12月の高市総理大臣の指示により、翌年5月から10万人以上の政府職員が利用できる環境整備が明言されました
- ●2026年度中にはすべての省庁・機関の約18万人が利用できる体制を目指しています
「エージェンティックAI」は今すぐ行政に導入されるのですか?
- ●現時点では「導入検討・試験段階」が主です
- ●米国では2026年に各州リーダーが統合を検討しているという報告があります
- ●ただし、自律的に判断・行動するAIは説明責任や誤りへの対処という意味でガバナンスの難易度が格段に上がるため、実運用には慎重な設計が必要です
なぜ「使っている」のに「機能していない」のですか?
- ●技術の問題だけでなく、データの質・ガバナンスの未整備・組織文化の変化の遅さが複合的に絡んでいます
- ●古いITシステムへのAI統合が困難であることを最大の障壁として挙げる組織が約48%にのぼります(EY調査)
- ●「AIを動かすことはできても、組織全体の仕事の流れを変えることは別の話」という構造的な問題です
まとめ
「70%以上が使い、18%しか機能していない」という数字が示すように、世界の行政AIは今、実験フェーズから本格運用への転換点に立っています。技術の問題だけでなく、データ基盤・ガバナンス・組織文化という「見えにくい壁」が改革を阻んでいることが本質です。次の波であるエージェンティックAIが来たとき、この壁を乗り越えられているかどうかで、公共サービスの質に大きな差がつくでしょう。次に気になる方は「データガバナンス」や「公共DX(デジタルトランスフォーメーション)」というキーワードで学びを深めてみてください。
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